
エリック・クラプトン
ダブリューイーエー・ジャパン
発売日 1998-03-10
エリック・クラプトンはかつては染め上げたシャツを着て、もっぱら男性ファンから崇拝されるギターの神様だった。その彼が今やアルマーニに身を包み、女性に人気のヒットチャートをにぎわすバラード歌手に変ぼうを遂げた。けれども、そうした見方は大事な点を見逃している。1990年代のクラプトンは、本格的なブルース(1994年の素晴らしいスタジオライブ・アルバム『From The Cradle』)や、最新のテクノロジーや、エレガントな現代風のR&Bナンバー「Change The World」に手を広げてきた。
新曲入りのスタジオ・アルバムとしては『Journeyman』以来になる本作は、彼の最も野心的で最も暗い面に踏み込んだアルバムで、自身のダークサイドをあらゆる面で映し出している。本作のタイトルはただの思いつきではない。本作にあるのは、時の浸食に対する内省的な思いであり、恋愛と同じくらい精神的な問題にも焦点があてられている。オープニング曲の「My Father's Eyes」は心の傷となったよちよち歩きの息子の死(この事故から92年の「Tears In Heaven」も生まれた)を暗示し、タイトル曲はカーティス・メイフィールド風の熱のこもったファルセットによって魅惑的な効果を上げている。プロデューサーのサイモン・クライミーはコンピュータによるオーケストレーションと歯切れのよい打ち込みのリズムを作りこんでいる。その一方でクラプトンはその圧倒的かつ比類ないエレキギターのソロを控え、代わりにアコースティックギターを用いて抑制されてはいるが巧みなスタッカートのリフと滑らかなリズムを刻んでいる。「She's Gone」では、より荒々しくより鋭い切れ味のギターを鳴らしている。(Sam Surtherland, Amazon.com)
確かに地味ではあるが、本来こういう嗜好の人なんでは 2006-09-01
1997年発表。エリック・クラプトンといえばブルージーでハードなギターを鬼神のように弾きまくるギターヒーローの一人だが、彼がその一員になりたいと憧れてやまなかったグループは何だっただろうか。
そう、ザ・バンドである。ロビー・ロバートソンが書くアメリカの原風景的な曲に流れる郷愁を帯びた世界に魅力を惹かれて以来、彼はクリームを脱退し、数あるバンドを作ったがどれも自分の思うように上手くいかず、結局自分のギター一本で時には切なく、またあるときにはハードに弾きまくってメシを食ってきたのだが、息子の死と「チェンジ・ザ・ワールド」のヒットによって、やっと肩の力が抜けてもともと自分が目指したかった方向性に進むことが出来た。その結果完成したのが本作である。
打ち込みとSE、ストリングスを多用した音のくっきりした渋いナンバーが並ぶので、それまでの彼の特徴であるギター主体の渋いブルースやHRを期待すると見事に裏切られる。しかしそのかわりに並ぶ曲は一貫してザ・バンド的なアメリカ土着のポップスの風を漂わせる内容になっており、親としての強い意志、別離の悲しみ、愛(安らぎ)の地への彷徨、新しい恋の始まりなど、原風景的な懐かしさと哀愁を彼らしい繊細な味付けで歌った世界が堪能できる。スルメ盤とは言い得て妙で、聴けば聴くほど彼の音楽表現の長年の憧れの世界の結実を実感できる一枚だ。しかしザ・バンドの「南十字星」を聴いて考えると彼らとは少々感性が違うという感も少なくない。ザ・バンドの場合、どこから本当でどこからが虚構なのかアメリカ人自身がわからない。それに比べると本作はクラプトンの憧れが露骨に見えるので、ファンタジーとしてわかりやすい。よってザ・バンドとは全く別物のアダルト・オリエンテッドな作品として聴くべきなのだろう。
カヴァーイラストは「新世紀エヴァンゲリオン」のキャラクターデザインで有名な貞本義行氏によるもの。安らぎと湖面が揺れる寸前の緊張感が拮抗している状態を表現してほしい、というクラプトン本人の依頼によってコラボレーションと相成った。時期がエヴァ全盛期で賛否両論あったが、アーティストの意思を反映した良い出来だと思う。
さらに詳しい情報はコチラ≫
[PR]キーワードアドバイスツール